霊界通信   新樹の通信   第二篇

乃木さんと語る

(五)お宮とお墓


 前回に引きつづき、まだいろいろ質問したいことがありましたので、私は重ねて十月十五日午後八時半頃新樹を呼び出し、乃木さんと私との間の中継役を命じました。何回も繰り返しているうちに、新樹もだんだんうした仕事に興味を有って来たらしく、この日も大へんに歓び勇んで、この面倒な、同時に相当気骨の折れる任務に就いてくれたのでありました。――

問『これは前回にもお尋ねしたことでありますが、お墓とお宮との区別にきて、あなたがそちらの世界で、実地に御覧になられるところを、忌憚なくお漏らしして戴きたい。ドウも私の観る所によれば、現代の日本国民は、この点に関してすこぶる無定見……イヤむしろ全然無知識に近くはなは辻褄つじつまの合わぬことを、一向平気でりつつあるように考えられますが……。』

答『それにきては、先般あなたから訊ねられて、わしもよく考えて見ましたが、墓というものはあれは人間界のみのものでつまり遺骸を埋葬するシルシの場所であります。こちらの世界に墓というものは全然ない。又あるべき筋の物でもないと思います。然るにお宮は霊魂の通ふところ……つまり顕幽間の交通事務所とでも言うべき性質のものであるからそれは人間の世界にあると同時に又こちらの世界にもあるもっともこちらの世界のお宮というものは、ごく質素な、ホンの形ばかりのもので、とても人間の世界に見るような、あんな華美りっぱな建物ではありません。畏れ多いことであるが、伊勢の大廟にしても、又明治神宮にしても、こちらのお宮は、いずれももったいないほど御質素であります。』

問『して見ますと、人間が矢鱈に立派な墓を築くなどは、あれは一向詰らん事でございますナ?』

答『もちろん、わしとしてはそう思います。いかに立派な墓を築いてくれても、こちらに必要がなければ、一向つまらないものでナ……。立派な墓は、ただ華美を好む現世の人達を歓ばせる丈のものであります。――と言って、もちろんわしは、全然墓を築くのが悪いというのではありません。遺族や友人が墓へ詣って、名でも呼んでくだされば、それは此方こちらにも感じますから、死んだ人の目標として、質素な墓を築くことは、はなはだ結構なことでありましょう。わしはただ、あまりに華美なことをして貰いたくないと言うまでで……。』

問『すでにお墓とお宮とが、そんな具合に相違したものであるとすれば、お宮詣りと、お墓詣りとをごつちやにすることは、いかがなものでしょう?』

答『日本には、昔からその辺の区別が、立派についている筈じゃと思うが……。』

問『ところが近頃、その区別が乱れて来て居はせぬかと考えられるのであります。近年大臣とか、大将とかいう歴々の人達は、何かの機会に、伊勢の大廟へ参拝したついでをもって、よく桃山の御陵へお詣りをされるようです。これにつきて、乃木さんの腹蔵なき御意見を承りたいと思います。』

答『桃山の御陵というのは、自分はもちろん少しも知りませぬが、こちらでほのかに承る所によれば、大分御立派なものじゃそうナ。当局も国民一般の願望に動かされて、自然そうしたことになったであろうと思いますが、御陵というものは、畢竟ひっきょう御遺骸を葬った、ただのおシルシに過ぎないから、陛下の御神霊をお祀りした明治神宮とは、性質が全然異います。まして大廟と御一緒にすべき性質のものでないことは、もちろんの事であります。しも日本の国民が、その点に関していささかも取違えるようなことがあっては、はなはだ面白くないことと思われますから、一つこの機会をもって、あなたから世間一般に知らせて戴きましょう。――うした間違の起るのも、つまりは神というものを本当に知っているものが、だんだん少くなった故でありましょう。わしの生きている時分にも、精神作興とか、敬神崇祖とかいう言葉がよく使われたものでありますが、ドウも兎角上滑りがして形式に流れ、深いところまで徹して居ぬ嫌いがあったように思います。あなたの力で、これをモウ少し何とかして戴きたい……。』

問『私のような微力なものに、果してどれ丈の効果を挙げ得るか、はなはだ心元なく感じますが、兎に角できる丈のことはする覚悟でります。乃木さんもドウかそちらの世界から御援けしていただきます。』

答『いかにもそれは承知いたしました。しかし何分にも、まだ一向修行が足りない身であるし――それに自分は戦争の事やら何やらで、多くの兵士を殺し、他に合わせる顔がないので、成るべくは表面おもてに引き出して貰いたくないのじゃが……。』

 この日の問答の主要なる部分は、大体右に掲げた通りでした。乃木さんのいつもながらの謙遜な態度は、一と方ならず私を恐縮せしめ、『矢張り乃木さんはえらいものだ』と痛感した事でした。


乃木さんと語る
(四)一問一答

目  次

乃木さんと語る
(六)日本国民に告ぐ


心霊図書館: 連絡先