霊界通信   新樹の通信   第二篇

乃木さんと語る

(四)一問一答


問『あなたが自殺されて、そちらの世界に目覚められる前後の状況を、成るべく詳しくお話して戴きたい。斯学しがくの研究の為めにも、又心ある日本国民の考慮を促がす上からも、これははなはだ大切なる資料と考えられますのです……。』

答『それにはいろいろの事情が……(一語一句ポツリポツリと考えた句調で)自分は 先帝陛下に対し奉りて、相済まぬと思うことも数々あり、――又二人の子供にもわかれてしまい、しかも自分は現世に生きながらへてても、大して国家の御役に立たない老体となりましたので、――陛下の崩御を伺うと同時に、すツかり覚悟を決めましたが、――さてドウいう風にしたらよいか、それにはいろいろと苦心を重ねました。まだなかなか病気が出るような模様もない躯であり、――いかな方法をもってこの世を去ろうか、その事はよくよく考えぬきました。――しかし日本帝国の軍人である以上、潔よく自刃して相果てるのが本望であろうと、遂にそう覚悟をめました。―― 一たん覚悟をきめた上は、後は非常に気持がさッぱりとしたもので、何の事はない、ただ一図に、あの世で先帝陛下にお目にかかり、又蔭ながら日本国を護らねばならぬと、そればかりを考えるようになりました。――自分の覚悟はくわしく静子にも話しました。すると静子の決心も自分と全く同一で、少しも後に生き残ろうという考はなく、それでは私も御一緒にと、立派な決心をしてくれました。――二人の子供を亡くしてるので、世の中が厭になっていたせいもありましょう……。

『さて自刃の時期はいつにしたものかと、いろいろ考えましたが、陛下の御大葬を御見送りした上でなければ、早まった事になりますので、お見送りをしてからという事に決めました……。

『お見送りは自分達の住宅で致しました。それから後の事は、――いかに覚悟はしてたというものの、それはちょっとドウも、わしにも話し兼ねる……。

わしは自刃するまでの事はよく知ってるが、その後の事は、しばらく何の記憶もってりません。ある期間、わしは全然何等の自覚もなしに過しました……。

『やや正気づくようになってからも、何やら四辺あたりが暗く、頭脳あたま朦朧もうろうとしてて、依然とり留めたことは覚えていません。そのうちに、誰ともなくわしの名を呼ぶものがあったので、はツと眼がさめました。四辺あたりはまだ少し薄暗いが、気分は非常に爽快である。わしはその時初めて、自刃してこんな所に来たのかしら、と気がつきました。これで、先帝陛下にも、お目にかかれるであろうと思うと、心の中は嬉れしさに充ちました。――が、何を言うにもその当座は、ともすれば夢うづつの境に彷徨さまよい勝ちで、ただジッと静かにしてた方が楽でありました……。』

問『誰ともなくあなたのお名を呼んだと言われましたが、それはどんなお方でございましたか?』

答『それは装束を附けた立派な方で、その方がわしを呼び起してくれました。――わしは自分の友達でもあるかと思うて、よく見ましたが、別に友達でもなく、又年齢も少しお若い方なので、これは神さんであろう、と気がつきました。誰でも死んでこの世界に入ると、必ず神さんが来てお世話をしてくださるものじゃそうで、その後の自分が、何かうしてほしいと思うと、すぐにその願いが先方に届いて、良いようにしてくださるのじゃ……。』

問『そのお方はあなたの本来の御守護霊でありますか? それとも、帰幽後一時あなたのお世話をなさる指導者の方でありますか?』

答『さァそこのところは、まだよくわしにも判りません。いずれよく取しらべた上で御返答いたしましょう。万一、間違ったことをお答えすると、世の中を誤まりますのでナ……。』

問『あなたは其後そのご、神として祀られてられますが、むろん現界からの祈願は、そちらにとどきましょうナ?』

答『自分は見らるる通り、つまらない人間であったに係らず、国民挙って、自分を神に祀ってくだされ、自分としては、ひたすら恐懼きょうくしてる次第じゃが、神々の御守護により、及ばずながら、護国の神として大いに働く覚悟でります。ただし神社に祀られていると言っても、わしが常に神社にる訳ではない。神社に参拝者があれば、そちらの祈願が、よくこちらに通ずる丈のものであります。難有ありがたい事には、自分に対して国家守護の祈願をしてくださる方が、近頃だんだん多い……。』

問『あなたには 明治大帝の御後を慕はれて、自刃されたのでありますが、その事について差支なき限り、そちらの御模様をお漏しくださいませんでしょうか?』

答『畏れ多い事でありますが、――先帝陛下には、御崩御以来、まだ安らかにおねむり遊ばされてお出でのように、あの装束を召された方から申しきかされてります。それで、自分は常に 陛下の御霊みたまのお側近くには伺候しこういたしますが、折角御やすみのみぎりを、われわれ風情のものが、無躾にお言葉をかけ参らせることも、余りに畏れ多い次第と考え、成るべく差控えてる次第で……。すべてこちらの模様は、現世で考えてたところとは、いささか趣を異にしているところがあるものじゃ……。』

問『静子夫人、又戦死された勝典、保典のお二人には、そちらで、すでにお逢いになられましたか?』

答『逢ったという訳ではないが、静子とは音信を致してります。あれはわしよりは少し遅れて眼が覚めた模様で、こちらで思うことも、又あちらで考えることも、皆互いによく通じます。女性のことだから、矢張り子供の事など思っているようで……。二人の子供達は、まだ充分に眼がさめてらんと見えまして、これまでに一向通信をしてりません……。』

問『あなたはお墓とお宮と、両方をお持ちになってられる方であるから、是非おうかがいしたいと思いますが、お宮とお墓とは、何所がドウ違いますか? これは社会風教の上に、重大な関係がありますから、篤と御勘考の上にて御返答を願いたいと思います。』

答『墓と宮とは、そりャ大分訳が違います。――が、どの点が違うと言われると、わしも少々返答に困る……。次回までによく考えて置くことにしましょう。――今日はこれだけにして置いてもらいたい。』

 その日の問答は、大体これで終りました。この問答の間、新樹は乃木さんと私との中間に立ちて、非常によく仲介につとめ、乃木さんの言葉を取次ぐ時などは、ある程度まで、乃木さんの風格を髣髴ほうふつせしめるほど、緊張し切って居ました。


乃木さんと語る
(三)新樹を中継として

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乃木さんと語る
(五)お宮とお墓


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