霊界通信   新樹の通信   第一篇

(九)再生問題その他


 彼の父と亡児との間にはすっかりくつろいだ気分で、これという特殊の題目を設けずに雑話を交換することもしばしばあります。それ等の中には、もちろん何等とりとめのないのもあるが、又時として、そのまま葬ってしまうのも惜しいと思わるる節がないでもありません。手帳の中から手当り次第に抽き出して見ましょう。

問『生前の記憶は死んでもはっきり残っているものか?』

答 『そうですね、生前の事を考えると皆ぞろぞろ眼に浮んで来ますね。生きてた時よりも却ってはっきりしているようです。当時を想い出して僕はときどきうれしい気分にひたることもあります……。』

問『おまえの過去の短い生涯でいつが一番うれしかったか?』

答 『そうですね、僕の思い出の中では、中学校卒業後、長崎へ行ってた時代が一番面白かったと感じますね。ここを卒業したらんな所にいくのかしら……そう思って勉強して居ました。会社に入ってからは、何やら身が固まったようで、それほどにも面白くなくなりました……。』

問『横須賀時代にはよくおまえは海水浴に行ったものだが、そちらで海水浴はやりたくはならないか?』

答 『イヤこの間一度りましたよ。ある時僕が不図ふと海に入りたいナ、と思うと、途中の手続きは判らないが、兎に角僕はきれいな海岸に行ってたのです。そこで僕は泳いで見ました。その感じですか……。水の中にるような感じはしますが、別に冷たくも又温くも感じない。そしていくら泳いでも疲れない。要するに海水浴の気分がする丈で、生前の海水浴とは大分勝手がちがうのです。向うの方で誰だか一人ひとり泳いでいたようでしたが、はっきり判りませんでした……。』

問『おまえはそちらで親族みうちの誰かに逢ったかナ?』

答 『ええこの間お祖母ばあさんを尋ねて見ました。僕がおばあさん、と呼んで見ても返答へんじがありません。おばあさんはまだ余んまりはっきりして居ないようです。と言って、全然無自覚でも何でもない。静かに眼をつぶって、良い心持でうつらうつらしてると言った塩梅あんばいなのです……。』

問『呼んで自覚させる必要はないかしら?』

答 『さァおばあさんは別に苦痛がありそうでもなし、又これを呼び覚ましてドーコーという事もないのですから、あのまま安らかに眠らせて置いて、自然に眼が覚めるのを待った方がよいかと思いますね……。』

問『お祖父じいさんにはまだ逢わんかナ?』

答 『まだ逢いません。僕これから早速逢って来ます。地上とちがって、こんな場合には都合がよいです……。』そう言って沈黙がちょっとつづいたが、やがて彼は戻って来て祖父訪問の状況を報告するのでした。『僕行って来ました。お祖父じいさんは、お祖母ばあさんよりも後で歿なくなったのに、却って自覚が早いようです。生前のようにキチンと坐って、にこにこして居ました。僕が、おじいさん! と呼びかけると返答へんじはしないが、ドーやら判ったようです。よほどはっきりした顔をして居ました。――が、おじいさんも通信はまだ無理です。格別おとうさんの方で用事がないなら、モーしばらくあのまま安楽らくにさせて置かれたら良いでしょう……。』

問 『幽界へ行ったものがうして自覚が速かったり、遅かったりするのだろう。おまえの一存でなく指導役の方々にいて返答へんじをして貰えまいか?』

答 『お易い御用で……。――伺って見ると矢張り信念の強いものが早く自覚するそうで、その点において近代日本人の霊魂ははなはだ成績が悪るいようです。現に僕なども自分の死んだことも自覚せず、又自分の葬式の営まれたことも知らずにた位ですからね……。』

問『唯物論者――つまり死後個性の存続を信じない連中は死後どうなるかナ?』

答『非常に自覚が遅いそうです。』

問『一つこれから自覚して居ない人達の実況を見てくれまいか?』

答 『承知しました。――今その一部を見せて貰いましたが、イヤうもなかなか陰惨ですね。男も女も皆裸体はだかで、暗いところにゴロゴロして、いかにもからだがだるそうです。僕は気持ちが良くないというよりか、むしろ気の毒の感に打たれ、この連中は一たいいつまでこの状態に置かれてるのですか、とお爺さん(指導霊の一人)にいて見ますと、この状態は必らずしも永久につづくのではない。中には間もなく自覚する者もある。自覚する、しないは本人の心懸次第で、他からいかんともし難いのだ、という返答へんじでした……』

問『再生の事を一つ訊いて貰おうか?』

答 『お爺さんに伺って見ると、再生する者と再生しない者と二種ふたいろあるそうです。後者はそのままずっと上の界へ進むので、その方が立派な霊魂みたまだそうです。それほど浄化していないものは分霊を出すことによりて浄化する。浄化した部分は霊界に残るが、浄化していない分霊は地上に再生する。――ざっとそう言った手続きだそうです。赤ん坊でもその全体が再生するという事は無いそうで……。』

問『無自覚の霊魂でも、此方こちらで呼べば霊媒にかかって来るのはドーいう理由わけか?』

答『それは産土うぶすな系統の神さんがお世話をなさるからだそうです。そんな場合にはいつも産土系が世話を焼いてくれます。』

問 『おまえが現在りつつあるような幽明交通と、所謂いわゆる悪霊の憑依という事との間には、何等か根本的の相違があるか。一つしっかりしらべてくれまいか?』

答 『お爺さんに聞いて見ましたが、両者の間に根本的の相違わないようで、悪霊の憑依というのは、要するに有害な観念の波動が、強く対者のからだに感応するだけらしいです。』

問『前にも幾度も聞いたが、幽界にけるからだの感じをモ一度きかせてくれないか? 呼吸や脈搏はあるかナ?』

答『そんなものはてんで気がつきませんね。内臓などもあるのか無いのか判りません……。』

問『地面を踏む感じは?』

答 『自分のへやる間は、歩くという感じがないでもありませんが、地上の歩行とは大分ちがいます。歩くと言っても何やら軽い、柔かい気持です。又跫音あしおとというものもしません。遠距離に行く時には、一気呵成いっきかせいに行ってしまうので、尚更なおさら歩るくという観念が起りませんね……。』

問『幼少で死んだものが幽界でどんな生活をしているか一つその実況を見て来てくれないか?』

答 『承知しました。一つお爺さんにたのんで見ましょう。――(五六分の後)只今見せてもらいました。赤ん坊でも、小さいながら、われわれと同様、修行させられて、心も姿も発達するのですね。地上の小供のように迅速ではないが、矢張り、あんな塩梅あんばい式に大きくなるのですね。僕の行った所では、五十歳位の婦人達が二三人って、それが小供達の世話をして居ました。小供の人数ですか――人数は五六人で、三歳から四五歳位の男と女の児が一緒に居ました。抱かれたり、何かしてる具合は現世とちっともかわりません。場所はあッさりした家の内部なかですが、ドーも幽界こちらの家屋は、どれも皆軽そうに見えます。ずッしりと重そうなおもむきがなく、何やら芝居の道具のような感じがしますね。僕はお爺さんに向い、此等これらの小供が学校へ行く年齢としになればドーなるのか、と尋ねて見ましたら、お爺さんは早速僕を学校のような場所へ連れて行って見学させてくれました。一学級の生徒は二十人位で、矢張りここでも男女合併教育をしていました……。』

問『他にも組がいくつもあるのだね?』

答 『いろいろの組に分れて居ます。何を標準として学級を分けるのかというと、それは受持の教師のする事で、主として小供が死ぬ時に、因縁によりて導いてくれた神とか仏とかに相談して充分調査の上で実行するらしいのです。もっとも宗教的区別などはある程度までの話で、上の方に進めばそんな区別は全然消滅するそうです。』

問『科目はどんな風に分れているか?』

答 『現世とは大分ちがいますね。算術などは全然不必要で、其他そのほか地理も歴史もありません。幽界で一ばん重きを置くのは矢張り精神統一で、これをやると何でも判って来るのです。音楽だの文芸だのも、子供の天分次第でワケなく進歩するようです。学問というよりもむしろ趣味に属しましょう。趣味があればいくらでも進歩するが、趣味がなければまるきり駄目です。ですから小供達は一室に集まってりながら、その学修する科目はめいめいちがいます。……。』

問『生徒達の服装は?』

答『皆まちまちで一定していません。帽子などもかぶっていませんでした。』

問『書物だの、黒板だのもあるか?』

答『皆一と通り揃って居ます。小供が質問すれば教師はそれに応じて話をするらしく見えます。』

問『教師はどんな人物だったか?』

答 『三十歳前後の若い男でした。お爺さんにきいて見ると、この人は生前に小供を持たなかった人だそうです。つまり生前小供の世話をしなかった埋合わせに、幽界で教員をやりたいという当人の希望が、神界から聴き届けられた訳なんだそうです。で、僕なんかもその部類に属しはしませんか、と試みにお爺さんにきいて見たら、お爺さんはただ、ソーだなあ、と言って居ました……。』

問『話頭はなしは少し後戻りするが、赤ん坊が死んだ時にドーいう具合でるものなのか、一つ世話役の婦人にでも、きいて貰えまいか?』

答 『承知しました。――女の人はう答えます。赤ん坊は少しも浮世の波にもまれず、従って何等の罪も作らずに現世を去ったのであるから、神さまの方でも、ごくおだやかに幽界に引き取ってくださる。つまり現界から幽界への移りかわりがなだらかで、そこに死の苦痛も悲みもなく、ほとんど境遇の変化を知らずに、すらすらと成長をつづけるのだという話です。長く地上に生きてれば、自分ではその気がなくても、知らず識らず罪をつくりますが、赤ん坊にはそれがありません。赤ん坊がらくなのは当然だと僕も思いますね。ヘタに中年で死ぬより赤ん坊で死んだ方が幸福かも知れない……。』

問『赤ん坊は乳を飲みたがりはしないか?』

答 『最初は保姆ほぼが乳房をくくませるそうです。もっとも乳が出る訳でなく、又乳を飲む必要もない生活なので、小供の方でもだんだんその欲望がなくなって来るそうです……』

問『幽界の小供の発育が遅いのは何故なぜだろう?』

答『小供の発達には矢張り現世の生活の方が適当なのでしょうね。幽界でも成長することはするが現世にくらべるとずっと遅いということです……。』


(八)一週忌前後

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新樹の通信 第二篇


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