霊界通信   新樹の通信   第一篇

(六)母の守護霊を迎う


 新樹が少しく、幽界生活に慣れるのを待ち構えて、彼の父は、そろそろ彼に向い、訪問、会見、散歩、旅行等の註文を発しました。これは一つにはその通信の内容を豊富ならしめたい為めでもありましたが、又これによりて成るべく亡児の幽界に於ける活動力を大きくし、同時に、若くして父母兄妹と死別せる亡児の、深い深い心のきずを、成るべく早く癒してやりたい親心からでもありました。うした方針は今後も恐らくかはることがないでしょう。ここには亡児が彼の住宅に母の守護霊を迎えた時の模様を紹介したいと思います。

 彼の父が初めて来訪者の有無につきて亡児に質問したのは、昭和四年十二月二十九日のことでした。その時亡児が母の守護霊の来訪を希望する模様でしたので、早速その旨を守護霊に通じました。

問『子供が大へん寂びしそうですから、あなたに一つお客様になって戴きたいのですが……。』

答『そうでございますか。それは大へん面白いと思います。良い思いつきです……。』

問『ではあなたからちょっとその旨を子供の方に伝えて戴きましょうか。』

答『承知致しました。(少時の後)あの子にそう申しましたら大へんに歓びまして、それではお待ち致しますから、との返答へんじございました。』

 その日はそれっきりで分れましたが、昭和五年一月元旦、彼の父は右の約束どおり、亡児を呼んで、早速母の守護霊の来訪を求めさせました。地上生活とは異なり、こんな場合には、極めて簡単で、亡児がそう思念すれば、それが直ちに先方に通じ、そして先方からは瞬く間に来訪すると言った仕掛であります。

 それでも亡児は最初ちょっとモジモジしながら、――

ぶことはびますが、時代が僕と大へんに違うから話がうまく通じるかしら……。』

などと独語して居ました。彼の父は多大の興味をもってその成行きを待ちました。

 それから凡そ十分間ほど沈黙がつづきましたが、その間に彼の母の霊眼には亡児の幽界に於ける例の住宅が現われ、そこには亡児が和服姿で椅子に腰かけてる。と、彼の母の守護霊が足利末期の服装でドアを開けて入って来る――そんな光景が手に取る如く現われたのでした。委細は左記亡児の説明に譲ります。――

 僕お母さんの守護霊さんに待ってて戴いて、こちらの会見の模様をおとうさんに御報告致します。(亡児は生前そっくりの語調で、近頃になく快活な面持で語り出でました)守護霊さんは、僕の見たところでは、やっと三十位にしか見えません。大へんどうも若いですよ。頭髪は紐でゆわえて後ろにたれてあります。着物はちょっと元禄らしい、丸味のある袖がついていますが、もっと昔風です。帯なども大へん巾が狭い、やっと五六寸位のものですが、そいつを背後うしろで結んでダラリと左右に垂らしてある。丁度時代物の芝居などで見る恰好です。着物の柄は割合に華美はでです。守護霊さんの容貌ですか……。報告係りの資格で、僕構わずブチまけます。細面ほそおもてで、ちょっと綺麗な方です。額には黒い星が二ついてあるが、何といいますかね、あれは……そうそうまゆずみ、そのまゆずみと称するものがくっきりと額に描いてあるのだから、僕達とはよほど時代がかけ離れている訳です。履物はきものですか……履物はきものは草履です。こいつぁ僕の眼にも大して変ったところはありません。

『これが僕のへやですから、どうぞおはいりください。』

 僕がそういいますと、守護霊さんは、大へんしとやかな方で、へやの勝手がちがっているので、ちょっと困ったと云った御様子でしたが、兎も角も内部なかへ入って来られました。僕は委細構わず、自分の椅子を守護霊さんにすすめました。僕も一脚しいなあと思うと、いつの間にやらもう一脚の椅子が現われました。こんなところはこちらの世界のすばらしく調法な点です。

 僕は守護霊さんと向き合って坐りましたが、さて何を話してよいやら、何にしろ先方むこうは昔の人で、僕キマリが悪くなってしまったのです。でも仕方がないから僕の方から切り出しました。

『時々霊視法その他いろいろの事を教えていただいて、誠に有難ありがとう存じました……。』

 守護霊さんは案外さばけた方で、これをきっかけに僕達の間に大へん親しい対話が交換されました。もっとも対話と言っても、幽界では心に思うことがすぐにお互に通ずるのですから、その速力は莫迦ばかに迅いのです。対話の内容は大体次ぎのようなものです。――

守護霊『いつもあなたの事は、別に名前を呼ばなくても、心に思えばすぐに逢えるので、一度もまだ名前を呼んだことがなかったのですが、今日は、はっきりきかせてください。何というお名前です?』

僕『僕は新樹しんじゅというものです。』

守『そうですか、シンジュというのですか。大変にあっさりとした良い名前です……。私とあなたとは随分時代がちがいますから、私の申すことがよくあなたに判るかどうか知れませんが、まあ一度私の話をきいて見てください……。あなたはそんな立派な男子おとこになったばかりで若くてくなってしまわれて大へんにお気の毒です。あなたのお母さまも、常住しょっちゅうあなたの事を想い出して歎いてばかりられます……。しかし、これも定まった命数で何とも致方がありません。近頃はあなたのお母さんも、又あなたも、大分あきらめがついたようで何より結構だと思っています……。』

僕『有難ありがとございます。今後は一層気をつけて愚痴っぽくならないようにしましょう。ついては一つ守護霊さんの経歴をきかせて戴きます。』

守『私の経歴なんか、ふるくもあり、又別に変った話もないからそんな話は止めましょう。それよりか、あなたの現在の境涯をきかせてください……。』

 守護霊さんは、御自分の身上話をするのが厭だと見えまして、僕がいくらこうとしてもドーしても物語ってくれません。仕方がないから、僕は自分が死んでからの大体の状況を物語ってやりました。そうすると守護霊さんは大へん僕に同情してくれて、幽界に於ける心得と言ったようなものをきかせてくれました。――

守『私の歿なくなった時にもいろいろ現世の事を想い出して、とてもたまらなく感じたものです。でも、死んでしまったのだから仕方がないと思って、一生懸命に神さんにお願いすれば、それで気が晴れ晴れとなったものです。そんな事を幾度も幾度も繰りかえし、段々歳月つきひが経つ内に現在のような落ついた境涯に辿りつきました。あなたも矢張りそうでしょう。矢張り私のように神さんにお願いして、早く現世の執着を離れて向上しなければけません……。』

 僕は守護霊さんの忠告を大へん有難ありがたいと思ってききました。それから守護霊さんは僕がドーして死んだのか、根掘り葉掘り、しつこく訊ねられました。――

守『そんな若い身で、どうしてこちらへ引取られたのです。くわしく物語ってください……。』

僕『僕、ちょっとした病気だったのですが、いつの間にか意識を失って死んだことを知らずにたのです。そのうち伯父さんだの、お父さんだのからきかされて、初めて死を自覚したので……。』

 僕いやだったからわざと詳しい話はせずに置きました。それでも守護霊さんはなかなか質問を止めません。――

守『それでは、あなたは死ぬつもりはなかったのですね?』

僕『僕ちっとも死ぬつもりなんかありません。こんな病気なんか、何んでもないと思ってたんです。それがんな事になってしまったのです……。』

守『お薬などはあがらなかったのですか?』

僕『薬ですか、ちっとは薬も飲みました……。しかし僕そんな話はしたくありません。僕の執着がきれいにれるまで病気の話なんかおききにならないでください……。』

 この対話の間にも守護霊さんは気の毒がって、さんざん僕の為めに泣いてくれました。矢張りやさしい、良いお方です。お母さんの守護霊さんですから、僕の為めに矢張りしんみになってお世話をしてくださいます。『何んでも判らないことがあったらこちらに相談してください。私の力の及ぶ限りはドーにもしてお力添を致してあげます……。』親切にそう言ってくださいました。

 二人の間には他にもいろいろの雑話がかわされました。――

守『家屋の造りが大変ちがいますね……。』

僕『時代がちがうから家屋の造りだってちがいます。』

守『たったお一人でさびしくはありませんか?』

僕『別段さびしくもありません。僕はいろいろの趣味をっていますから……。現にここけてあるのは僕のいた絵です。』

守『まあこの絵をあなたがおきなすったのですって? こちらへ来てからいたのですか?』

僕『そうです。これが一番よくけたので大切に保存してあるのです……。』

 僕が自慢すると守護霊さんはじっと僕の絵を見つめて居ましたよ……。

 大体右に記したところが、亡児によりて通信された会見の顛末でした。彼の父が直接会見の実況を目撃して書いたのでなく、当事者の一人たる亡児からの通信を間接に伝えるのですから、いささか物足りないところがありますが、しかしこれはうした仕事の性質上致方がありません。で、幾分でもこの不備を補うべく、左に彼の母の守護霊との間に行われた問答を掲ぐることに致します。これは亡児が退いてからすぐその後で行われたものです。――

問『只今子供から通信を受けましたが、あなたが新樹を訪問されたのは今回が最初ですか?』

答『そうでございます。わたくしはこれまでまだ一度も子供を訪ねたことがございません。』

問『一体あなた方も、ちょいちょい他所よそへお出掛けになられる場合がおありですか?』

答『そりゃございます。修行する場合などには他所よそへ出掛けも致します。もっとも大抵の仕事はじっと坐ったままで用が弁じます……。』

問『今日の御訪問の御感想は?』

答『ちょっと勝手が違うので奇妙に感じました。第一家屋の構造つくりが私達の考えているのとは大へんに相違して居ましたので……。』

問『あなたは先刻しきりに子供の名前をかれたそうで……。』

答『私、今までは、あの児の名前を呼びませんでした。私達には、心でただあの児と思えばすぐ通じますので名前の必要はないのです。しかし今日は念の為めにはっきりきかせて貰いました。シンジュと申すのですね。昔の人の名前とはちがってあくどくなくて大へん結構だと思いました。……。』

問『あなたは、あの児を矢張り、御自分の児のように感じますか?』

答『さあ……。直接じかに逢わないといくらか感じが薄うございます。けれども今日初めてたずねて行って、逢って見ると、大へんにドーも立派な子供で……私も心から悲しくなりました。ドーしてまあういう子供を神さまがこちらの世界にお引き寄せなさいましたかと、口にこそ出さなかったものの、随分ひどいことだと思いまして、その時には神さまをお怨みいたしました。――私から観ると子供はまだ執着がすっかりりきれては居ないようでございます。あの子供は元来陽気らしい資質たちですから、口には少しも愚痴を申しはしませんが、しかし心の中では矢張り時にはうちのことを想い出しているようでございます。で、私は子供に、自分の経験したことを物語り、自分も悲しかったからあなたも矢張りそうであろう。しかしこればかりは致し方がないから早くあきらめる工夫をしなければけないと申しますと、子供も大へん歓びまして、涙をこぼしました。涙の出るのも当分無理はないと思います。自分にちっとも死ぬ気はなかったのですから……。私は別れる時に、し判らないで困ることがあったら、遠慮せず私に相談をかけるがよい。私の力に及ぶかぎりは教えてあげるからと言って置きました……。』

問『この次ぎは一つあなたの住居すまいへ子供をんでいただけませんか?』

答『お易いことでございます。もっとも住居と申しましても、私のる所は狭いお宮の内部なかで、他所よその方をおびするのにはあまり面白くありません。どこかあの児の好きそうな所を見つけましょう。心にそう思えば私達には何んな場所でも造れますから……。』


(五) 彼岸の修行

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(七)母の守護霊を訪う


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