霊界通信 新樹の通信 第一篇
(四) 幽界人の姿その他
幽界の居住者と交通を行うに当りて、誰しも先ずききたがるのは彼等の生活状態、例えばその姿やら衣食住に関する事柄やらでありましょう。彼の父の質問も決してその選には漏れませんでした。
手帳を繰り拡げて見ると、彼の父が初めて亡児に向い、かれが幽界で執っている姿につきて質問を発したのは七月二十六日、第九回目の招霊を行った時でした。
問『現在汝は以前の通り、自身の躯があるように感ずるか?』
すると亡児は考え考え、次ぎのように答えました。――
答『自分というものがあるようには感じますが、しかし地上に居た時のように、手だの、足だのが、あるようには感じません……。と言ってただ空なのではない、何物かがあるようには感じます。そして造ろうと思えばいつでも自分の姿を造れます……。』
この答えは一と方ならず彼の父を考えさせました。在来欧米に現われたる幽界通信によれば、彼岸の居住者の全部は生前そっくりの姿、或はそれをやや理想化し、美化したような姿を固定的に有っているように書いてあります。これは深く霊魂問題に思いをひそむる者の多年疑問とせる点で、これが果して事実の全部かしら? という疑いが常に胸の奥の奥で囁きつつあったのであります。が、多くの幽界通信の所説を無下に排斥することも亦乱暴な仕業でありますので、止むなくしばらくこれに関して最後の結論を下すことを避けて居た訳なのですが、今この亡児の通信に接し、彼の父は何やら一道の光明に接したような気がしたのでした。
『こりぁ面白い』と彼の父は独語しました。『幽界居住者の姿はたしかに造りつけのものではないらしい。それにはたしかに動と静、仮相と実相との両面があるらしい……。』
殆んどこれと前後して、彼の父はスコット女史の躯を通じて現われた『ステッドの通信』を読みましたが、その中にほぼ同様の意味の事が書いてあったので、ますますこの問題に興味を覚え、この日の質問をきっかけに幾度かこれに関して亡児と問答を重ねました。亡児も亦面白味がついたと見え、自分の力量の及ぶ限り、又自分で判らぬ時には母の守護霊その他の援助を借りて相当具体的の説明を試みました。八月三十一日の朝彼の父と亡児との間に行われた問答はその標本の一つであります。――
問『幽界人の姿に動と静と二た通りあるとして、それならその静的状態の時には全然姿はないのか? それとも何等かの形態を有っているのか?』
答『そりぁ有っていますよ。僕等の平常の姿は紫っぽい、軽そうな、フワフワした毬見たいなものです。余り厚みはありませんが、しかし薄っぺらでもない……。』
問『その紫っぽい色は、すべての幽体に通有の色なのか?』
答『皆紫っぽい色が附いて居ますよ。しかし浄化するにつれて、その色がだんだん薄色になるらしく、現にお母さんの守護霊さんの姿などを見てみると、殆んど白いです。ちょっと紫っぽい痕跡があるといえばありますが、モー九分通り白いです……。』
問『その毬見たいな姿が、観念の動き方一つで生前そっくりの姿に早変りするというのだね。妙だナ……。』
答『まあちょっと譬えていうと速成の植物の種子のようなものでしょう。その種子からぱっと完全な姿が出来上るのです……。』
問『その幽体も、肉体同様やがて放棄される時が来るだろうか?』
答『守護霊さんにきいたら、上の界へ進む時はそれを棄てるのだそうです。――しかし、必要があれば、その後でも幽体を造ることは造作もないそうで……。』
問『幽界以上の界の居住者の形態は判るまいか?』
答『判らんこともないでしょう、僕には沢山指導者だの顧問だのが附いて居て、何でも教えて貰えますから……。お父さんは一段上の界を霊界と呼んで居られるようですが、只今僕の守護霊さんに訊いてみましたら、霊界の居住者の姿も大体幽界のそれと同一で、ただその色が白く光った湯気の凝体見たいだといいます。――こんな事をただ言葉で説明してもよくお判りになれないでしょうから、お母さんの霊眼に一つ幽体と霊体との実物をお目にかけましょうか?』
彼の父が是非そうしてくれと註文すると、間もなく彼の母の閉じたる眼底に、極めてくっきりと双方が映じ出でたのでした。後で統一から覚めて物語るところによると、どちらもその形状は毬又は海月のようで、ただ幽体には紫がかった薄色がついて居り、そしてどちらも生気躍動と言った風に、全体にこまかい、迅い、振動が充ち充ちていたといいます。
この種の問答はまだ数多くありますが、徒らに重複することをおそれ、ただ比較的まとまりの良い、第四十六回目(昭和四年十二月二十九日午後)の問答を以てすべてを代表させることに致します。この日は昭和四年度の最終の招霊と思いましたので、多少の繰返しを厭わず、お浚式のものにしたのでした。――
問『多少前にも尋ねたことのあるのが混るだろうが、念の為めにモー一度質問に応じて貰いたい。――汝が伯父さんに招ばれて初めて死を自覚した時に自分の躯のことを考えて見たか?』
答『そうですね……。あの時、僕、真先きに自分の躯のことを思ったようです。するとその瞬間に躯が出来たように感じました。触って見ても矢張り生前そっくりの躯で、別にその感じが生前と異いませんでした。要するに、自分だと思えばいつでも躯ができます。若い時の姿になろうと思えば勝手にその姿にもなれます。しかし僕にはドーしても老人の姿にはなれません。自分が死んだ時分の姿までにしかなれないのです。』
問『その姿はいつまでも持続して居るものかな?』
答『自分が持続させようと考えている間は持続します。要するに持続すると否とはこちらの意思次第のようです。又僕が絵を描こうとしたり、又は水泳でもしようとしたりするとその瞬間に躯が出来上がります。つまり外部に向って働きかけるような時には躯が出来るもののように思われます。――現に今僕が斯うしてお父さんと通信している時には、ちゃーんと姿ができています……。』
問『最初汝は裸体姿の時もあったようだが……』
答『ありました。ごく最初気がついた時には裸体のように感じました。こりぁ裸体だな、と思っていると、その次ぎの瞬間にはモー白衣を着ていました。僕、白衣なんかイヤですから、その後は一度も着ません。くつろいだ時には普通の和服、訪問でもする時には洋服――これが僕の近頃の服装です。』
問『汝の住んでいる家屋は?』
答『何んでも最初、衣服の次ぎに僕が考えたのは家屋のことでしたよ。元来僕は洋館の方が好きですから、こちらでも洋館であってくれれば良いと思いました。するとその瞬間に自分自身の置かれている室が洋風のものであることに気づきました。今でも家屋の事を思えば、いつでも同じ洋風の建物が現われます。僕は建築にあまり趣味を有ちませんから、もちろん立派な洋館ではありません。丁度僕の趣味生活に適当した、バラック建ての、極めてざっとしたもので。』
問『どんな内容か、モ些し詳しく説明してくれないか?』
答『東京辺の郊外などによく見受けるような平屋建で、室は三間ばかりに仕切ってあります。書斎を一番大きく取り、僕いつも其所に居ります。他の室は有っても無くても構わない。ホンの附録物です。』
問『家具類は?』
答『ストーヴも、ベットも、又台所道具のようなものも一つもありません。人間の住宅と異って至極あっさりしたものです。僕の書斎には、自分の使用する卓子と椅子とが一脚づつ置かれて居る丈です。書棚ですか……そんなものはありませんよ。こんな書物を読みたいと思えば、その書物はいつでもちゃーんと備わります、絵の道具なども平生から準備して置くというような事は全然ありません。』
問『汝の描いた絵などは?』
答『僕がこちらへ来て描いた絵の中で、傑作と思った一枚丈が保存され、現に僕の室に懸けてあります。装飾品はただそれきりです。花なども、花が欲しいと思うと、花瓶まで添えて、いつの間にやら備わります。』
問『現在斯うして通信して居る時に、汝はどんな衣服を着て居るのか?』
答『黒っぽい和服を着て居ます。袴は穿いていません。先ず気楽に椅子に腰をかけて、お父さんと談話を交えている気持ですね……。』
問『庭園なども附いているのかい?』
答『附いていますよ。庭は割合に広々と取り、一面の芝生にしてあります。これでも自分の所有だと思いますから、邸の境界を生籬にしてあります。大体僕華美なことが嫌いですから、家屋の外周なども鼠がかった、じみな色で塗ってあります。』
問『イヤ今日は話が大へん要領を得て居るので、汝の生活状態が髣髴として判ったように思う。――しかし、私との通信を中止すると汝は一体ドーなるのか?』
答『通信が済んで了えば、僕の姿も、家も、庭も、何も彼も一時に消えて了って、いつものフワフワした凝塊一つになります。その時は自分が今何所に居るというような観念も失せます。』
問『自我意識はドーなるか?』
答『意識がはっきりした時もあれば、又眠ったような時もあり、大体生前と同一です。しかし、これは恐らく現在の僕の修行が足りないからで、追い追い覚めて活動して居る時ばかりになるでしょう。現に近頃の僕は、最初とは異って、そう眠ったような時はありません。その事は自分にもよく判ります。』
問『汝の住宅にはまだ一人も来訪者はないのか?』
答『一人もありませんね……。幽界へ来ている僕の知人の中にはまだ自覚している者が居ないのかも知れませんね……。』
問『そんな事では寂びしくて仕ょうがあるまい。その中一つ汝のお母ァさんの守護霊にでも依んで、訪問して貰おうかナ……。』
答『お父さん、そんな事ができますか……。』
問『そりぁきっとできる……できなければならない筈だ。汝等の世界は大体に於て想念の世界だ。ポカンとして居れば何もできまいが、誠心誠意で思念すればきっと何んでもできるに相違ない……。』
答『そうでしょうかね。兎に角お父さん、これは宿題にして置いてください。僕行って見たい気がします……。』
この日も彼の母の霊眼には彼の幽界に於ける住宅がまざまざと映じましたが、それは彼の言って居るとおり、頗るあっさりした、郊外の文化住宅らしいものだったとの事でした。その見取図もできてはいますが、格別吹聴するほどのものでもないから爰には省きます。
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