ステッドの通信

一一 押せば開く


ステッド『書きつけ方を依みます。――私達の住む世界は一の新らしき天国であり、又一の新らしき地界でもある。要するに両者は同一だ。私達はかつて一種の天国を夢みた時代もあったが、さていよいよこちらに来て見ると、それは天国らしい生活に相違はないが、しかし気持丈は往時地上に住んでた時と大体同じようだ。

『私達は風のように迅く動き得る。私達は温き光にぬくぬくと浴している。私達は地上生活につきもののもろもろの恐怖から遁れている。私達には、寒さもなければ、飢もなけれは、又苦しみもない。ここへ来るのはさながら冬の終に春を見出すが如きものである

『あなた方には想像もつくまいが、霊魂の生活は元気溌溂たる熱の生活である興味と屈托との充ち充ちた生活であるただしそれには何等物質的実業的方面はない七顛八起 しちてんはっきく黄金万能ぺテン掛引――そんなものは幸にして全く跡を絶って居る。私達には新らしい能力が加わってる。穿鑿せんさく心に富めるものには、私達のつ能力の一部を察知し得るであろうが、大部分は到底地上の人間には判るまい。

『一例を挙ぐれば私達には一転瞬てんしゅんの間に一地点から他の地点に赴くことのできる力がある。私達は一つの地点を思念するとモー其所へ行っている。途中の空間は存在しない。私達は遠く遠く地上を離れて星辰の世界に逍遥しょうようしてるかも知れない。それでもあなた方の思念は私達の許に届く。どんなに離れていても扉のすぐ外側にるのと少しもちがわない。押しさえすれば扉はすぐに開くのである

『不幸にして地上の人間は、私達が人間に対して気づいているほど、私達に対して気づいて居ない。私達の思想があなた方の許に達しても、あなた方はそれを単なる自己の潜在観念位に見倣みなし勝ちである。これに反してあなた方の思想は間違なく私達の許に達する。思想は椅子よりも卓子よりも一層現実である。実はこの世で思想ほどの実在物はないのである。』 (三月三日)


一〇 脊負っている殼

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一二 肉体の醗酵事業


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