附録 長南年惠物語

八 法廷に於ける霊水湧出

 話題が裁判問題に入るに及び、長南氏の談話にはいよいよ熱度が加わりました。同氏は語りつづけました。――

『裁判問題は、右の様な次第で大変手間てまどれましたが、其間そのかんに大阪控訴院に於ける控訴上告は破棄されまして、神戸地方裁判所で再審理を受ける事になりました。当時この事件に関係した判検事をはじめ、弁護士に至るまで今でもほとんど全部行方ゆくえわかってるのは、資料の権威を加える点につきはなはだ好都合であります。この事件の裁判長は中野という判事で、私が現在どうなったか存じませんのはこの方だけです。陪席判事は岸本さんで現在は大阪で弁護士を開業してられます。又検事の高木さんも矢張り只今老松町で弁護士、それから私の方で依頼した弁護士が、御承知の横山鑛太郎氏……現在では東京控訴院の検事部長を勤めてられます。おひまがお在りなら一応此等これらの関係者にきて当時の実状の調査をなされたら又何等かの新材料が手に入らぬものでもなく、又私の談話の裏書ともなる訳です。是非ぜひ機会おりを見てそうなさる事を希望致します。

『さていよいよ十二月十二日をもって神戸地方裁判所に於ける公判の開廷という段取に進みました。ここで法廷の模様を一々述べる必要はございますまい。裁判長、陪席判事、立会の検事をはじめ弁護士、被告等すべて型の如く座席を占め、型の如き訊問が一と通り済みました。やがて中野裁判長から、被告はこの法廷においても霊水を出すことができるかとの質問でした。姉は平気で、それはお易いことでございますが、ただ一寸ちょっと身を隠す場所を貸して戴きたいと答えました。そこでいよいよ適当の場所において実験執行ということになり、一旦公判廷は閉じられました。

『裁判官達はその実験の場所につきて暫時しばし会議を遂げた上で、結局弁護士詰所をそれに宛てる事にきめました。御承知かも知りませんが、当時神戸の裁判所は新築中で、弁護士詰所の如きは、やっと電話室が出来上ったばかりで、電話の取付はまだしてありませんでした。この電話室を塵一つ留めぬまでに掃拭し、姉をそのうちに入れることになったのであります。

『いよいよ実験となると、姉は裸体にされ、着衣その他につきて厳重なる検査を施行されたことは申す迄もありません。そして裁判長自から封印せる二合入りの空壜一本を手づから姉に渡し、かかりの判検事は申す迄もなく、弁護士やら官吏やら多数環視の裡に、姉は静かに右の電話室にはいって行ったのであります。

『姉が電話室に入ると同時に、私は携帯の時計を取り出して時間を計りました。すると正に二分時を経過せる時に、電話室の内部なかからコツコツと合図が聞えます。そして扉が開かれて立ち出でたる姉の片手には、茶褐色の水をもって充たされたる二合壜が元の通り密栓封印のままで、携えられてたのであります。――

『公判廷は再び開廷せられ、茶褐色の水の充ちたる二合壜は判官の机上に安置されました。裁判長と被告との間には次ぎの如き奇問奇答が交換されました。

問 「この水は何病にくのか」

答 「万病に利きます。特に何病に利く薬と神様にお願いした訳でござりませぬから……」

問 「この薬を貰って置いてよろしいか」

答 「よろしうござります」

 かくの如くにして訊問は終り、即刻無罪の宣告が下りました。』


七 大阪に於ける拘留沙汰

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九 大阪毎日新聞の記事


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