続幽魂問答

九 霊遷しの式

 この時作次郎霊璽を収むべき白木の箱を持来り、又杜氏は海水で浄めた注連しめを運び入れ、いずれも机上にならべました。幽魂の物語りはまだ尽きませぬが、夜半も余程過ぎましたので、いよいよ霊遷たまうつしの式を執行することに衆議一決しました。

宮崎。御箱も出来、その外の用意も調いたれば霊遷たまうつしの式法に取りかかるでござろう。

 山本神職は三方さんぱう神酒みきや神饌を載せて恭しく運び入れますと、病人の市治郎はたちまち威儀を正し三尺ばかりしざりて一礼しました。病人の左右には宮崎、山本の両氏が祭服をつけて坐に着き、三四十人の人々は程よき所に陣取りました。

幽魂。さてさて時を得て願望ことごとく成就し、此上このうえの悦ばしさはござらぬ……。

 病人は机上に安置されたる霊璽の前に拝伏し、涙を流しながら箱の内部を熟視してしみじみとした調子でかく述べるのでした。

宮崎。お御心に残ることあらば、何事にても申置かれよ。兎も角も計らい申さむ。

幽魂。イヤ別に心残しの儀もござらぬ……。

作治郎。今後当家に凶事のしるしもあらば、必らずおしえ下されよ。

幽魂。当家に代々不具者の生れたるは、わが怒りに触れての事なれば、今後はさるたぐいの事は決してなかるべし。その外些末いささかの不幸災厄は免れぬかも知れねど、そは世の常の事なれば、深く思い煩うにも及ばじ。お以後この家に変事もあらば、我力の及ぶ限りは必らず守護に当るものと心得られよ。

傳四郎。毎年七月四日には宮崎、山本御両人の御苦労を願い、一家近縁の者共を集めて貴殿のお祭祀まつりを営むことに致したし。

幽魂。そは願うてもなき儀、何分御法の通りに依み入る。さて更めて申すまでもなけれど、わが霊魂の鎮まる場所設定の件は、何卒世間に包み、べっして公辺の御厄介にならぬよう取計らい下さるべし。

 そう言って拝伏したまましばらく頭を上げませんでした。そこで燈火を消して霊遷りの式を終り、拍手かしわでを打つと同時に病人のからだは左の方に静かに転ぶ音がしました。再び微かに点燈し、箱の釘をめさせてから式の通り送り出し、仮りに設けたる場所にそれを鎮めました。


八 帰幽後の状況

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十 後記


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