続幽魂問答
八 帰幽後の状況
山本。さて先刻の霊璽の箱もいよいよ出来したれば、それがし海水にて浄め置きたり。追々に遷り玉え。
幽魂。その儀はまことに御苦労に存ずる。――御法通り、万端の準備出来たる上は、即刻遷り申すべし。
宮崎。しばらく待たれよ、承り落せることあり。――すべて人霊帰幽すれば、多くの霊一所に集まり、一塊となりて万代同様に残るものか、それともそれぞれ別の形を備えて居るものか。又其形はいかなる形か。
幽魂。先月も申しし如く、幽界の秘事を白地に顕世の人に漏らし難き事情あり。問われて益なく又語りても耳に入るべきにあらず。耳に入らぬことは却て疑いの心を誘いて、害となるべし。
宮崎。予は幽事を疑う者の疑念を解かんが為めに質問は仕らず。ただ天地の真理を知るの一助にもと思うばかりなり。縦令耳に入らぬまでも一応誨え玉え。
幽魂。さらば一と通り語り申すべし。尋常に帰幽したる同気の者に限りて一所に集まり居れど、そはただ居所が同一というまでにて、多くの人々の霊が一つに成るにはあらず。各人皆別々なり。尤も志の同じき者は、幾人にても集合して一つになることあれど、そは一時の事にて、万代までも一つになるにはあらず。要は離合自在というまでなり。又霊魂の形は、顕世の人の若き時と老いたる時とに変りあるが如く、折にふれて少しづつ変ることもあり。されど此理は今述べ難し。又現世にありし時、忠孝その外の善事を努め、誠実に心を尽し乍ら其誉れ世に現われずして帰幽したるものは、幽界にて賞誉を受け、其霊魂は太く、徳高くなり、又顕世に功績ありて、その功績だけの賞誉を顕世にて受けたる者は、幽界にて人並みの取扱いを受くるに過ぎず。又顕幽後新たに功を立てて高く貴くなる霊もあれば、現世にて善人なりしものが、帰幽後怒に駆られて其地位の引き下げらるるもあり。総じて生前死後ともに、これで安定ということはなき也。又人の霊魂中には主宰の神の御計らいにて再び人世に生れかわるもあり。それ等の事は、永く幽界に居れば次第次第に解るなれど、われ等の如き霊魂が幽界の事情に就きて知り得る範囲は極めて僅かなり。之を要するに顕幽ともに大本の道理は一つなれど、事物の上に現わるる趣きは大に異なるものにて、幽に在りては容易に顕の事を知り難く、又顕より幽の事理は容易に弁へ難し。現世の諸宗門又儒道などが、兎や角幽界の事を説けど、そは真実と思うは惑いなり。
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