心霊図書館 >> 心霊文庫第1篇

心霊研究之栞

(三) 卓子其他そのほかの浮揚発声現象

 物理的心霊現象の中で最も早く世人の視聴を惹いたのは蓋し卓子浮揚現象でありましょう。これは日本の狐狗狸さんと同工異曲ですがただ仕掛が大へん大袈裟に出来て居ります。何貫目かにのぼる卓子が手ばなしでフラフラ空中に浮揚するというのですから、唯物論者の迷夢を打破するには誠に誂向きの現象であります。ただうした物理的現象に附きものの弱点はそれが普通暗闇の中でなければうまく行われないことです。勿論むろんそれには学問的に立派な理由があり、例えば写真の現像に暗室を必要とするようなものですが、疑深い人達はこの点に向って極度に難癖を附けます。止むを得ず心霊学徒もその対抗策として卓子に夜光液を塗ったり、霊媒の躯を緊縛したり霊媒と手を繋ぎ合ったり、その他百方工夫をこらして疑惑を排除するに努めます。

 卓子浮揚現象の霊媒は以前から欧米に沢山輩出して居ります。近代の霊媒中稀に見る学者であり、又人格者である、スティーントン・モーゼスなどにもこの現象が起り、又多年学者達の実験材料にされた伊太利のユーサピア女史も屡々しばしばこれを行いました。しかし卓子浮揚現象の霊媒として心霊学界に多大の貢献をしたのはベルフアストの、カスリィーン・ゴライヤー嬢で、一九一四年から同二〇年迄満六年間、ほとんど一週に一回づつ極度に厳正周到なる実験に服しました。実験者は士官としてベルフアストのクイン大学の機械学講師クローフォード博士で、惨憺たる苦心の結果、ほぼこの現象の裏面の装置及び原理を解決することができました。

 クローフォード博士の心霊実験家として特筆大書すべき功績は霊媒を衡器の台上に載せて卓子を浮揚させたことであります。使用した卓子の重量は十ポンド六オンスでしたが、やがて卓子が浮揚した後に衡器の目盛りをしらべて見ると、驚くべし霊媒の重量にほぼ卓子の重量だけが加わって居ることを発見しました。

 この事実は何事を物語るか? 外でもない卓子の浮揚中霊媒と卓子との間に、ある無形の連鎖が成立して居ることであります。しからばその無形の連鎖の正体はそもそも何物? 博士はそれを突きとめるべく百方苦心を重ねた結果、最後に卓子浮揚中マグネシ ウムを燃してその写真を撮ることによりて多年の疑惑を闡明することができました。何となれば霊媒の躯、就中その膝及び踝の辺から腕木状の棒が発出し、下から卓子を支えている状況が写真の種板にはッきりと写って居たからであります。クローフォード博士の著『心霊的構造サイキック ストラクチュアズ』中には各種各様のエクトプラズムの構造が示されて居りますが、それ等は霊媒の身体各部から突出し、あたかも生物であるかの如く勝手に形状をかえ、るものは一本であり、るものは枝に分れ、あるいは細く、あるいは太く、そしてその運動は驚くべく迅く自由であり、単に卓子を浮揚せしむるばかりでなく、卓上の器物類を飛ばしたり、電灯のスイッチをひねったり、鉛筆を握って文字を描いたり、いろいろの楽器を鳴らしたり、その芸当はなかなか莫迦にできません。

 ある時クローフォード博士はどの程度までエクトプラズムの抽出によりて霊媒の体量が減るものかを試験しましたが、カスリィーン嬢の場合には減少の極量が五十四封度ポンド半に達することを発見しました。彼女の普通の体量が百二十八封度ポンドですからほとんど半減になった訳です。おエクトプラズムの抽出は常に脈搏の昂進を伴い、普通五十二しか搏たないカスリィーン嬢の脈搏が、卓子浮揚中には百二十六位に達するのでした。これは独り彼女に限らず、一般に物理的霊媒にありては通有の現象であります。

 日本で此程これほどの現象に堪能なる霊媒は目下龜井三郎氏ただ一人あるばかりです。龜井氏は年齢ようやく三十歳の青年文士ですが、不思議に多方面の能力所有者で、ほとんどあらゆる種類の物理的現象が同氏を通じて起ります。私が同氏を実験したのは昭和四年の春からでまだ一ヶ年に充ちませんが、その間に起った主なる現象を列挙すると、(一)コップの卓子貫通、(二)物品引寄、(三)縄抜け、(四)卓子其他そのほか物品の浮揚発声、(五)腕時計抜き取り、(六)物質化、(七)透視、(八)直接書記(九)直接談話、(十)襦袢脱き、(十一)精神感応、(十二)直接吹奏、(十三)人形取り、等であります。この間学者、実業家、新聞記者其他そのほかの人達の希望に応じて実験を行うことすでに約五十回に及びますが、毎回何等かの新現象が加わるので今後の龜井氏の能力がどこまで発展するかは容易に推定がつきません。

 龜井氏によりて発現する物理現象は専ら暗中において行われますので、同氏の身体の統制法には常に最大の注意が払われました。同氏は縄抜けの名人でもあるので、ややもすれば暗闇の中で縄を抜いて卓子浮揚其他そのほかのイタズラを演ずるのではないかと疑う人もあるようですが、それは厳密なる実験の結果事実でない事が徹底的に確かめられました。立会人等は毎回実験の開始前と中間と最終とに都合三回同霊媒を精査しますが、常にその緊縛状態に異状を認めません。普通は麻縄で手足、首、胴を椅子にくくりつけて封印を施すのですが、時には両手を棒縛りにしたり、時には鉄鎖又は革紐で縛ったのに錠を卸したりしました。それでもお詐術でないかと疑うのは結局自分自身を疑う事はなはだ非科学的な態度であります。そんな人は到底心霊実験に臨む資格が無いとわねばなりません。

 さて龜井氏の卓子浮揚現象は昭和四年十一月十四日、東京の電気日報社講堂で行われた時が皮切りでしたから左にその日の概況を紹介します。(雑誌「心霊と人生」第七巻一月号より抄出)――

一、時 日 昭和四年十一月十四日午後六時より

一、場 所 東京麹町区有楽町電気日報社講堂

一、司会者 浅野和三郎

一、立会人 綾井忠彦氏、大竹武吉氏、黄金井晴正氏、河野九峯氏其他そのほか合計十九名

 当日の実験は電気日報社に於ける第四回目で、心霊科学研究会々員を中心として行われたものであった。大体の状況は既報のものと大差なく、消灯後直ちに敲音ラップが起り、夜光液を塗った楽器及び玩具類(喇叭ラッパ、笛、ハーモニカ、懐中電灯、人形、ゴム毬、鈴等)がそれぞれ大活動を起し、就中目覚しかったのはゴム毬で、霊媒の身辺二けん許の辺を縦横自在に飛翔し、又跳躍した。又麻縄で緊縛した霊媒の手首の腕時計がいつの間にかはずされて机上に置かれたり、目覚し時計が鳴りながら立会人の前面をあちこち動き廻ったりしたことも前数回に亘って起った所と大差なかった。

 が、当夜の実験において特筆すべき現象が四件ほどあった。第一は

  天井の幕に安全ピンで留められた人形が除去された事

で、その際夜光液を塗ったゴム毬の一個が青光を放ちつつ右の人形の周囲をグルグル飛翔している中に、同じく夜光液を塗りてある人形がぱつと幕を離れて斜めに立会人某氏の膝に落ちたのは頗る奇観であった。幕の高さは床上約九尺であった。

 第二の現象は

  玩具を載せてある卓子が五六尺浮揚したこと

であった。これは何人も予期して居なかった現象なので一同少なからずびッくりした。卓子は円型のもので重量は一貫五百匁ほどであった。その上に載せてある玩具類がことごとく夜光液を塗ってあるので大体高さの目測ができた。クローフォード博士の実験では床上四フィートというのが卓子浮揚の最高記録レコードとなって居るから、龜井氏は高さに就て確かにこのレコードを破った訳である。

 第三の現象は

  実験の半頃から赤灯が床上に点け放しになった事

であった。右の赤灯というのは例の赤紙で捲いた浮揚用の懐中電灯なのだが、それがいつの間にか床上に置かれ、其所そこで最後まで赤光を放ちつづけたのである。実験の初期には赤灯でも邪魔らしいが、中途からは格別差支さしつかえがないものらしい。これは今後の大切な研究題目である。

 第四の現象は

  霊媒が縛られたまま襦袢を脱いだこと

であった。襦袢脱きの現象は前にも二回ほどあったが、今回は上着と肌襦袢との中間に着ているフランネルの襦袢を脱いだのが変って居た点で、脱いだ襦袢は霊媒の身辺から約六尺を隔てた地点に置かれていた……。


(二) 心霊現象の
種類と霊媒

目  次

(四) 心霊写真現象


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